すれ違いざまに、突然問われた質問に、思わず足を止めた。
振り向くことは辛うじてしなかったけど、あまりにストレートな聞き方に、動揺してないっつったら嘘になる。


「……は?」


あくまで冷静に……見せかけて。
俺は背を向けたまま、ほんの少しだけ顔を横に短く答える。俺のその角度からはチハルの顔なんか見えない。
逆に、チハルからも、俺の表情なんて見えないはずだ。


「……いや。なんとなく、ネ!」
「……なんだそれ」


なんだ……? 美佳がまたなんか口滑らせたか? アイツはほんとに、余計なことをペラペラと口からこぼしまくるからな。
……そこが短所であり、長所でもあるんだけどな。俺にとっては。


「ぼく、予定よりもうちょっと、日本(こっち)にいよーかな!」
「はあぁっ?!」


勢いよく声を上げたのは俺じゃなく、三那斗。
でも、俺もさすがに驚いて、歩き始めていた足を止めてしまった。


「なんか、最近楽しいし! Vacanza!(ヴァカンツァ)」
「それ、“バカンス”とかそーいう意味?」
「Wow! ミナトが当てたー」


ケラケラと、三那斗に向かって無邪気に笑うチハルの横顔を見る。