「……行っちゃった!」


ケロリとした顔で言ったチハルは、靴を履き替える。

ああ、昔少しでも日本にいたから、靴を履き替えることを覚えてたのか。それとも、大人になってから仕事で来る時に覚えたのか。

そんなどうでもいいことを考えながらチハルを見ていると、不意に顔を上げたチハルと目が合った。


「……セイジは、すごい“オトナ”になったんだねぇ」


……は? なにを急に言うんだ、こいつは。親戚のおじさんかよ。


「別に、フツウだろ」
「そうなのかなぁ? じゃあ、性格変わったのかな? やっぱ」
「は?」
「昔(まえ)みたいに、大きく声を出して笑ったりしないし」


……わけわかんないな、こいつは本当。

あまりに抽象的な会話にため息をつき、俺もスリッパから靴に履き替えて三那斗に話しかける。


「三那斗。先に行くぞ」


自転車であろう三那斗にそう言って、チハルを横切り玄関を出ようとしたとき。


「――ミカのこと、好き?」