「廊下にいねぇと思えばこんなとこで!なにを!」
ズンズンと詰め寄ってくるのは三那斗。
チハルの胸ぐらを掴んで、前後に揺すりながらキレてる。でも、チハルはやっぱり楽天思考というかなんというか……。
「ミカが許してくれたから、うれしくてついー」
「『つい』ってなんだ!てか、『許す』ってなんだ!まさか、美佳……」
「ち、違う! そーいう意味じゃないッ」
『許す』を、『抱きしめるのを許可する』ってはき違えてるな!三那斗のバカっ!
全力で否定しながらも、不測の事態に勝手に顔が赤くなる。
「ふっ……ざけんなよ、チハルっ!」
手は出ないけど、喧嘩っ早いその性格、なんとかならないのかな、三那斗は。
そんなことを思ってため息混じりにハタから見てたら、チハルが三那斗に体を揺すられるがままに言った。
「えー。ミナトがどーしてそんな怒るの?ココはセイジが怒るとこじゃナイの?」
んなっ……! なにを……。
「セイジ」と口にしながらチハルが向けた視線の先を追うと、聖二が静かに立っていて……。
えっ⁈ い、いつから⁈そこに⁈ いや、ちょっと待って。
三那斗が今の見てたって言うんなら、聖二のやつだって――――。
「…………おい」
みんなが黙って、しんとした玄関に、聖二の低い声だけが聞こえる。
そして、私の目をじっと見つめてきた。
一体何を言うつもりなんだろう。
もしかしたら、ちょっとは怒ったりする……?
そんな淡い期待と緊張で、ドキドキとしていたら、ふいっと顔を逸らされた。
「あれ、お前の“かーさん”じゃねぇの?」
「……え」
聖二の視線の先を辿ると、玄関のガラス越しにお母さんの走って向かってくる姿があった。
「ついでに、担任もお前のこと探してたけど」
「え⁈ ヤバッ……」
急いで戻んなきゃ!あーでも、もうお母さん待って一緒に教室行った方がいーか!
あー、もう。こんなバタバタするなんて!
それから、私は呑気にやってきたお母さんの手を引くように、急いで教室へ戻って行った。