「だめだめっ。よく知らない相手をそんなふうに悪く思うのは!」


うん、そう。よくないよ、こういう思考は!
チハルの妹だもん。きっと、いい人だよ。ていうか、悪い人じゃなかったもん。

ただ……ただ、聖二の隣にいたのを見ちゃったから……。


「……嫉妬だ」
「なんだって?」
「ひぃっ!」


思わず飛び退く勢いで声を上げてしまった私。
心臓が飛び出るかと、胸に両手をあてながら、隣のベランダを見る。


「せ……」


――聖二!
仕切りの向こう側にいる人物の、さらりとした黒髪。それと、ときどき微かに見える煙は、いたっていつもと同じ光景だ。


「んんっ!」っとなんの咳払いかわからないものをひとつして。
一度深呼吸をした私は、後退した距離をゆっくりと埋めるように歩み寄る。


「い、いつから……ていうか、どこから聞いてたの?!」
「おい。いつも言うけど、『聞いてた』んじゃなくて、『聞こえてきた』んだ」


……うう……。
確かに。そう言われてしまえば反論できない、自分が恨めしい……。

でも……でも、どこから?
ていうか、私、どの部分を口に出して言ってた?

一番記憶に新しいのは、「嫉妬」とかって言っちゃったやつ。

嫉妬って……嫉妬って!! ええっ!!
一番聞かれたらマズイ言葉じゃん!