なんとなく。本当、なんとなくなんだけど。

チハルが部屋にいるのを確認してから、そーっと足音を立てないようにリビングに出る。
そして、ベランダの窓も音が出ないように静かに開けて、隙間からするりと外に出た。


「っはー……あ。息してなかったかも、今」


無意識に、口を一文字にして動いていた自分を思い返してひとこと漏らした。


家に誰かがいるっていうのは、淋しいときはとっても助かる。けど、こうしてなにかをするときに、悪いことをしてるわけじゃないんだけど、どこか気を遣う。


「……なんて、都合いいな、私」


俯いて自分に失笑する。


チハルだからまだ良かったかな……。
確かに職業柄かっこいいんだけど、気取らないし、話しててものほほんとしてる部分あるし。

これが違う人だったら、もっともっと気を遣ったのかもしれない。
もし、話するにも息が詰まったりしてしまうような相手なら……。


ふ、とアキラの顔が思い浮かぶ。


それから、目をぎゅっと瞑って、ぶんぶんと大きく首を横に振った。