もう限界。
これ以上、ここにいられない。

―――恥ずかしすぎて。


私はロボットのようにぎこちなく回れ右をして聖二に背を向けた。

そのまま部屋へ戻ろうと一歩踏み出した時に、背中に聖二の声が聞こえてきた。


「“いまさら”先とか後とか関係ねーよ」


その言葉で私は振り向く。

そこにはカーテン越しのぼんやりとした灯りに照らされた聖二の顔があって。

すごく柔らかな表情で私を見てた。


「……早く寝ろ」


―――出た。

なによ。ちょっと見とれてただけじゃない!
甘い雰囲気は数分間だけの魔法。

あっという間にいつもの憎たらしいやつに戻るんだから!


「言われなくても!」
「…いびき、程々にな」
「えっ!」


いびき、私かいてる?!
しかも、それ、隣に―――聖二に聞こえてるの?!


「―――くっ…冗談」


あからさまに慌てた顔をしてた私を見て、片眉をあげて口を抑えながら目の前の男が笑いを堪えてる。


カチンカチン。

いちいち踊らされる私も私だけど!

せっかく乙女の気持ちのまま、別れて眠りに就こうと思ったのに…台無し。


「…もーう知らない!明日遅くまで仕事なんでしょ!早く聖二こそ寝たら!」
「……ああ。よく笑ったし、そうするかな」
「むかーっ」
「その顔、夢にまで見そう」


だめだ。
毎回終わり頃に気付く。

私、こいつに敵わない。


「そしたらあっという間に朝になってそうだ」


楽しそうな笑顔で言う。

それって、私といると楽しいから時間が早く感じるってことだよね?

そういうところがまた、敵わないとこなんだよ。


「…おやすみ」
「ああ―――…またな」


その「またな」だけでなんでも頑張れそう。