【短編集】闇に潜む影



僕は寂しい気持ちを紛らわしたくて、


人がたくさんいる場所に向かった。


いつもは寄り道なんてしないで真っ直ぐに家へ帰るけど、


この日だけは、持て余した寂しさに耐え切れなくて、


繁華街へと向かった。





だけど、僕には目的なんてない。


騒がしい雰囲気に触れるためだけに来たから、


何をしてよいのか、どこに行けばよいのか、


それすらも実はよく分からない。





すれ違う他人。


同じ人間のはずなのに、


その胸に感情が宿っているのか、それすらも疑ってしまう。


顔すら覚えることのできない人で溢れるこの街は、僕の心を慰めてはくれない。


そんなことはとっくの昔に重々承知している。


それでも僕は、この街に来た。


寂しさを、ごまかしたくて。