【短編集】闇に潜む影



高級ブランドの店に入る。


いらっしゃいませ、と甲高い店員の声と同時に、


私の傍に寄ってきて、買ってくれるようせがむかのように、


接客してくる。


そう、皆、私がいないと困るの。


私の存在を、皆が求めているの。





私は気に入ったものを手当たり次第触れてみた後、


1番高価な鞄を手に取り、


店員に言う。


「これにするわ」


「ありがとうございます」


店員は、嬉しそうに笑って深々とお辞儀する。


当たり前よね。


ここの店員ですらも手が出ないようなモノを買っているのだから。


私は財布の中からカードを取り出し、


それを手渡した。


「1回でね」


「かしこまりました」


さて、あのかばんは、いつ使おうかしら。


そうね。


さっきの電話の件で使うのも良いかもしれない。


私は笑いをかみ殺しながら、


店員の背中を見つめ続けていた。