【短編集】闇に潜む影



銀座の街を歩いていると、カバンの中の携帯電話が鳴った。


新品の固い革だから、中の物を取り出すのは一苦労する。


ようやく取り出した携帯電話のディスプレイを見ると、見知らぬ番号からだった。


普段は知らない番号だったらとらないが、


何故かこの時ばかりは通話ボタンを押した。


「もしもし」
「あ、もしもし」


知らない声だ。


私は次の言葉を待った。


そして、私はその言葉に耳を疑った。


「いかがでしょうか?」
「・・・ちょっと・・・どうしようかしら」


私はどんな答えでも、即答することはしない。


心が決まっていても、必ず時間を置くことにしている。


どういう事が起こるか、どういう事情があるか、


新しく分かる事もあるから。


この時は、・・・未だ心は完全に決まったわけではなかった。


だけど、3時間後、恐らく私はこの番号に電話をかけなおし、


「YES」と返答するだろう。


そう考えながら、私は「少し、考えさせていただけますか」と答えた。


相手は「かまいませんよ」と答え、電話を切った。






ツー、ツー、ツー、無機質な電話の切れた音。




私は携帯電話を閉じて、元あったカバンの中にしまいこむ。


やはり、どんなに高級でも革のカバンは固くて嫌だ。


赤く塗った爪で鍵をかけた。


そして、布製の高級ブランドバッグを探しに街をさまよう。


たくさんの人とすれ違う街並みを背景にする自分の姿をショーウィンドウで見つけた。




綺麗な洋服。


高級な鞄に、高級な靴。


そこら辺では売っていない、高い化粧品で仕上げられた顔。


1,2時間では消えない、品のある甘い香り。


それらを身に纏う私は、美しい。


誰もがそう思う。


だから、私は、答えを決めていた。