【短編集】闇に潜む影




「私ね・・・。孤独なの」


「孤独?」


「うん。・・・多分ね」


多分という言葉が、私にとっての最後の砦だった。


でも、あっけなくそれは、彼によって崩される。


「そう、・・・辛かったんだね」


「・・・うん」


胸の奥に押さえつけていた、自分の視界に入らないように隠し続けてきた何かが、


私の中で広がっていった。


そう感じるとなぜか、目の前に広がっていた街並みが、何故か滲んで見えた。


張りつめていた気持ちが、少しずつ緩和されていく。


「私さ、


物心ついた時から母親に虐待されてきたの。


毎日殴られたり、蹴られたり。


ご飯も用意してくれなかったし、洋服も着替えさせてくれなかった。


今でも、毎日汚いシャツ着て、お腹がすけばお菓子を食べてたって覚えてる。


それで、・・・結局その虐待がばれて警察に捕まって、


私は6歳の時に施設に預けられたんだよ」


息継ぎをすることなく、一気に私は過去を語った。


漠然としすぎているけど、これが限界だった。


「でね、ばれたきっかけなんだけど。


母親が、私に言ったんだよね・・・」


もう10年も経つのに。


忘れたことなんて、1日もなかった。


「”ビルから飛び降りて”てさ」


10年前も、


私の前には、赤い空が広がっていた。


「私、バカでさ。母親がそう言うから、それに従ったの。


おかげで大けが。それで母親は逮捕されたんだよね。


後々、親戚とかいう人から聞いたけど、殺人未遂罪で有罪判決くらったって」


10年経った今も、


私の目の前には、赤い空が広がっていた。


深くて、赤くて、それは、いつでも私の胸を切なくさせた。


10年間。


赤い空は、私を悲しくさせた。