【短編集】闇に潜む影





フェンスに右足をかけた。


網を掴む手にぎゅぅ、と力を入れる。


左足を浮かせ、そのまま右足よりも少し上の網目にかける。


それを何度も繰り返して、とうとう私はフェンスを登り切った。


あとは降りるだけ。


降りるのは意外と簡単だった。


そして、とうとうフェンスの、さっきまで私がいた反対側にたどり着いた。





初夏の風が、私の全身にぶつかってくる。


私は目を閉じ、人生で最初で最後、自分自身にこんな質問を投げかけた。


16年間。


何が一番楽しかったのだろう。



・・・。



すぐに答えは出てこない。


それじゃあ、何が一番つらかっただろう。


それは、直ぐに答えが出た。





「お母さんのために、あのビルの屋上から飛び降りてくれないかなぁ?」





そう、母親に言われたことだ。


だから、私は言う通りにした。


母親に好かれたい、ただ、その一心で。