【短編集】闇に潜む影


「・・・はぁ」


フェンスに手をかけ、目下に広がる街を見渡す。


懐かしいこの感覚に、私の過去が目を覚ます。


今から10年前。


あの時もこうやって、目下に広がる街を見下ろしていた。


場所は違うけど、あの時は、意味も分からず、ただ街を見下ろしていた。


そして、躊躇なく、私は床を蹴って、飛んだ。


あの時、あのまま死んでいたら、こんな風に生きてはいなかっただろう。


「今度こそ・・・死ねるかな」


前のように、下にはクッションになる木はない。


飛び降りれば、


10秒以内に全身がコンクリートに叩きつけられて、


間違いなく、私は死ぬ。


死ぬなんて、大層なことのようだけど、何故か私の心は静かで落ち着いていた。


いや、本当は騒がしいのかもしれないのに、表面は静か、というものだろうか。



「やっと。・・・」



今のうちに、見えるものすべてを、この2つの目に焼き付けておきたかった。


通りを歩く人々。道を走る車。談笑する人たち。


それはとてもありふれているのに、


とても不思議な光景だった。


今この瞬間、誰かは生きていて、誰かは死んでいて。


そんなことは、皆分かっているのに、


知らないし、知ろうとも思わない。


適度に無関心でいられるようにできている、


人間はなんて都合の良い生き物なのだろう。


だけど、どうやら私はその機能があまりうまく働いてはくれなかった。


無関心でいられれば、楽だっただろうし、こんなことは当然考えなかった。