【短編集】闇に潜む影



皆の無邪気な笑いが羨ましかった。


親に反抗できたり、親と喧嘩したり、親と遊びに行ったり。


私には手に入らないものを、皆が当然のごとく手にして、それを持て余している。


羨ましい、そう思うことを、認めざるを得なかった。


そして、このどうしようもない不平等さに、神様を恨み続けた。





特にクラスメイトが、親の職業の話をしている時は、とても苦痛だった。


話を振られないように、その時だけは気配を消そうとして、ずっと黙っていた。


どうしても喋らなければならないときは、適当に会社員と誤魔化しておいた。


そうしなければならない自分が、惨めで、情けなかった。


皆には両手では抱えられないほど持っているものがたくさんある。


だけど、私には何もない。






皆が持っていて、私にはないものがあっても、


私が持って、皆にはないものはない。






いや、1つだけあるかもしれない。


でも、改めて口にすることは憚られた。


私自身よく分かっているし、口にすれば、嫌でもそれに直面しなければならない。


それができるほど、私は大人にはなれていなかった。