皆の無邪気な笑いが羨ましかった。
親に反抗できたり、親と喧嘩したり、親と遊びに行ったり。
私には手に入らないものを、皆が当然のごとく手にして、それを持て余している。
羨ましい、そう思うことを、認めざるを得なかった。
そして、このどうしようもない不平等さに、神様を恨み続けた。
特にクラスメイトが、親の職業の話をしている時は、とても苦痛だった。
話を振られないように、その時だけは気配を消そうとして、ずっと黙っていた。
どうしても喋らなければならないときは、適当に会社員と誤魔化しておいた。
そうしなければならない自分が、惨めで、情けなかった。
皆には両手では抱えられないほど持っているものがたくさんある。
だけど、私には何もない。
皆が持っていて、私にはないものがあっても、
私が持って、皆にはないものはない。
いや、1つだけあるかもしれない。
でも、改めて口にすることは憚られた。
私自身よく分かっているし、口にすれば、嫌でもそれに直面しなければならない。
それができるほど、私は大人にはなれていなかった。


