だけど、高校に通い始めてから、
私の「普通」は急激に私を置き去りにして、遠くへ消えてしまった。
高校生になってようやく、自分が「普通ではない」ことに気が付いた。
いや、正確に言えば、現実を直視させられた、と言うのだろう。
おそらく、中学までは同じ施設の子たちがたくさん同じ学校に通っていたから、
普通ではない世界を、普通であると思い込む事が出来た。
同じ仲間がいたから、私は「普通」でいられたし、自分を誤魔化す事が出来た。
取り柄のない私でも、勉強は、やればそこそこできた。
だから、奨学金をもらって、地元でも比較的優秀と呼ばれる高校に進学した。
施設の友達も、高校に進学する子が大半だけど、
皆、施設を出るときのことを考えて、高専に行ったり、
商業高校に進む子が多い。
私もそうすべきだったのかもしれない、と今更ながらそう思っている。
だけど、なぜか私は、一般の高校に通いたかったし、
親代わりの先生たちも、
「別に良いんじゃない?」とあっさり私の決断を後押ししてくれた。
だからこそ、知り合いのいない高校に入って、
知らされる現実は、私にとっては見知らぬ世界だった。
そこでは、当たり前のように皆に親がいて、
自分のためだけの家があって、
そこには自分の存在を1番に思ってくれている家族が待っている。
皆の財布の中には遊べるほどの十分のお小遣いが入っていて、
新品のカバンには、
新品の教科書と新品の文房具と新品の化粧道具を入れて、新品の制服を着ていた。


