隼人はベッドの上で、ぼぉ、と天井を見つめていた。
右手には携帯電話を握っているが、何か操作することなく、
ただ、握ったままだった。
後数分すれば、彩子から、命令口調のメールが来るだろう。
数少ない、彩子とのメール。
1日1回、義務のように送られてくるメール。
無いよりはマシだ。
そう自分に言い聞かせるが、でも、心のどこかで、自分が焦っていることを、
彼自身、自覚していた。
「・・・バーカ」
そう小さくつぶやく彼の声に、力がない。
ゆっくりベッドから起きて、彼は自分の部屋の窓へと近づく。
窓は閉められていて、カーテンが引かれている。
このカーテンを開け、窓を開ければ、
1メートルもしない距離に、彼女がいる。
声をかければ、ぶっきらぼうな声で、彼女はきっと答えてくれる。
でも。
「・・・古田・・・かぁ・・・」
複雑な気持ちが、彼の中に込み上げてきた。
怒りにも似ているが、怒りそのものではない。
嫉妬、それにも近いが、そのものではない。
羨望、・・・かなり近い。
素直に、あの男は自分の気持ちを言葉に表している。
自分自身にはない器用さだ、彼は正直にそう思っていた。
正直である方が、難しい。
嘘をついている方が、楽だから。
正直な自分を曝した時に傷ついてしまうかもしれない、
人はそれが怖くて、嘘をついてしまう。
彼も、例外ではない。
現に、嘘をついているのだから。