微かであったが、ピアノの音色が聞こえてくるのである。


もう、今日は部活も終わっている。


部室には誰もいないはずなのに・・・。


それは良く聞き慣れた、ピアノの音であった。


彼女が部活でいつも弾いているピアノを、誰かが弾いている。


部で私以外にピアノが出来る人は・・・知っている限りでは、誰もいない。


耳を澄ませてみる。


それは彼女がいつも聞くピアノの音色よりも優しく心に染み渡り、暖かだった。


それでいて、どこか切なく、物哀しさまでも感じられる。


一体誰だろう、こんなに優しい音を奏でている人は・・・。


曲は「月の光」



優しく舞うようなメロディーを持つこの曲は、彼女の好きな曲でもあった。


彼女はそっとドアを開けた。


ドアの隙間から、落ちかけた夕日に反射して見えたその姿に、彼女ははっと息を飲む。