「最近ね、思うのよ」


「ん?何を?」


「母さんね、今まで我侭に生きてきたなって。

やりたい事やって、言いたい事言って」


その言葉に、彼は懐かしい気持ちになる。


昔の生活を思い出した。


家族4人で暮らしていた日々。


裕福ではなかったけど、


とても楽しくて、誰一人欠ける事無く笑い合っていたあの頃。


特に母は愉快で、自由奔放な人だった。


旅行に行きたいと思えば、


平日でも子供や夫に学校を休ませて家族旅行をしたこともあった。


いつも元気一杯で、表情が人一倍豊かで。


夫婦喧嘩も、大体は母親が優勢だった。


しかし父はそんな母に対して何も言わず、


黙って、それもにこやかに聞いていた。


そして母を見るその目は、愛情で溢れていた。


そんな姿を思い出し、彼は自分の胸がいっぱいになる事を感じる。