「お父様、お呼びですか」


父の英雄が、ソファの上で前かがみになって、座っていた。


その目は厳しく、その焦点はまるでこげ付くように感じられた。


「・・・座りなさい。話がある」


顔も上げずに、そのまま話し出す。


胸騒ぎがする。


険しい様子の横顔が、これからの話の内容が良くないことを伝えてくる。


「・・・いかがなさったのですか」


恐る恐る尋ねてみた。


父は直ぐには口を開かなかった。


しばらくした後、ようやく二人の間を流れる沈黙が破られる。


「今までのことは、なかったことにする」


彼女は、父が何のことを喋っているのか、分からなかった。


「・・・どういう意味ですか?」


「・・・彼との見合いは、無かった事にする」


「・・・はい?」