ステージの上では、司会者が私達の略歴を紹介している。

 今年のファイナルは、例年以上に注目を浴びていたが、それはレイの存在による所が大きい。今日の観客の殆どが、既に何回か放送されているレイのドキュメントを一度は観た事がある者ばかりだろう。

 司会者の紹介の間、それぞれの位置にスタンバイし、いつゴーサインが出てもいい状態でその瞬間を待つ。

 司会者が突然レイに向って、

「今、どんなお気持ちですか?」

 と、なんの捻りも無いコメントを求めて来た。

 私は、そんな判り切った事を聞くんじゃねえよ、という台詞をしまい込んだ。

「ぼく、歌が大好きで、だから、こんなステージで歌える事が、さいっこうに嬉しいです!」

 レイらしいコメントだ。

 私も心也も深海魚も、今からもっと、さいっこうにご機嫌な時間を作ってやると思っていた。それは、言葉で確認し合わなくても通じる気持ちだった。

 照明が変わった。

 レイの身体がスポットライトにすっぽりと包まれた。

 薄いブルーのハロゲン電球から真っ直ぐにのびた光りが、レイの髪の毛一本一本まで、くっきりと浮かび上がらせ、光沢を放った。

 彼女の斜め後ろに立っていた私は、その姿を見て、なんて神々しいのだろうと見惚れていた。

 レイの歌を待ち切れないかのように、観客達から拍手が起きた。

 そして、音がステージを包み始めた……。