奈緒があの寺にいたのは、父親の納骨だったらしい。
父親は交通事故で亡くなったそうだ。
母親と奈緒は、地方にある母親の実家へと引っ越した。
生まれ育った東京を離れるのは寂しくも感じたが、花枝がいないとわかったこの場所にもう用はない。
奈緒が育っていくにつれ、俺も様々なことを学んだ。
日本がすっかり変わってしまったこと。
年号は昭和から平成になったばかりだということ。
国民には精神や表現の自由が認められ、戦争は放棄されたこと。
教育制度も変わり、敵国であったアメリカ合衆国とはすこぶる仲がよろしくなったこと。
歴史の授業で学んだが、あの空襲は東京大空襲と呼ばれていること。
様々な機械が発明され、豊かになった国民の家庭に普及していること。
平和な社会を奈緒の後ろから眺めていると、俺はどうしてこの時代に生まれなかったのかと運命を恨んだりもした。



