空襲の映像が伝わってきたのは、ほんの一瞬の出来事だ。
傘を差したまま立ち止まった少女が、大声を出して泣きわめく。
彼女にも空襲が見えたのだろうか。
俺も同じように泣いて喚きたかった。
「奈緒!」
母親が追い付いた。
少女は傘を放って母親に抱きついた。
母親は勝手に駆け出したのを咎めようとしていたようだが、あまりにも大泣きしているので逆に心配になったようだ。
「どうしたの。転んだ?」
「ううん」
「ほら、行きましょう」
「うん」
傘を持ち直し、二人は歩き出した。
俺は少女に引っ張られるようについていくしかなかった。
さっき少女を走らせることができたのは、花枝への気持ちで霊として強い力を発揮できたからなのだろう。
花枝がいないとわかったそれからは、俺には優しくしてくれたこの少女を守るくらいしかできなくなった。



