彼女にとっては、きっと雨粒をはらおうとしただけなんだと思う。
霊の俺に雨粒はつかないが、幼い彼女は俺を傘に入れ、はみ出た肩を何度も撫でた。
俺はその仕草に花枝を思い出してしまった。
「奈緒ー、何してるの。こっちよ」
遠くで彼女の母親らしき女が呼んでいる。
まずい、というような顔をして少女は母に顔を向けた。
「はーい」
素直に返事をした彼女は、再びこちらを向いた。
「あれ、おじちゃん?」
その時彼女にはもう、俺が見えていなかった。
首をかしげて傘をしっかり握りなおし、母の元へ駆けて行く少女を、俺は追った。
これが奈緒と俺の出会いであり、俺が奈緒に憑いたきっかけであった。
そうしてやっと、寺の境内を出ることができたのである。
俺が絶望したのは、それからすぐのことだ。



