浮気女の嫁入り大作戦


 土曜の朝の空いた電車は霊としても乗り心地が良い。

 俺は奈緒の隣に腰掛け、静かな車内のあれこれに目を向ける。

 向かいに座っている男子高校生には犬の霊が憑いているようだ。

 死んだ飼い犬だろうか。

 赤い首輪を付けている。

 動物の霊がはっきり見えるのは珍しい。

 俺は体を屈めてチッチッチッと舌を鳴らしてみた。

 犬は俺に気付き、しばらくこちらの様子をうかがい、おそるおそる寄ってきた。

 そっと頭を撫でてやると、目を細めて気持ち良さそうな顔をしている。

 いかんせん霊だ。

 撫でられるのも久々なのだろう。

 そうやってしばらく遊んでやっていると、ふと犬は消えてしまった。

 電車は駅に到着し、高校生はここで下車したらしい。

 彼を目で追うと、犬は彼と共にホームを歩いていた。

 そしてその頃、奈緒は目と口を少しずつ開けて眠ってしまっていた。