撫でたというよりは汚れをはらったのだろうが、俺には撫でたように思えてならなかった。

 パタパタ音が鳴ったが、いい子いい子とされているような感覚がした。

 花枝は少し茶色がかった長い髪を、きっちりおさげに結っているのが特徴で、とりわけ美人でもなければそんなに目立つ存在でもない。

 しかし俺は、肩に触れられただけなのに花枝に惚れてしまった。

「そうか? きれいにしてるつもりだけど」

「え? それで? うふふ、おかしい」

 それまでは大して話をすることはなかったが、この日の会話で俺たちの距離は縮まり、毎日何かしら話題を持ち寄るようになった。

 俺はそれまでより学生服を汚すように暴れ回ったし、それを彼女は毎日注意した。

 注意されるたびに花枝の手が俺のどこかしらに触れる。

 俺はそれが楽しみで仕方がなかった。

 とりわけ美人でもなかった花枝が、いつの間にか誰よりも美しく見えるようになっていた。

 恋というのは恐ろしいものである。