「実はね……」

 重いオーラを発しながら、樹は迷うように口を開く。

 奈緒は首をかしげ、樹の首に腕を巻き直した。

「ごめん、この話はまた今度」

「え?」

「いや、ちょっと話さなきゃいけないことがあるんだけど、正式に決まってからにするよ」

(何よ、プロポーズじゃないの?)

 奈緒が明らかにガッカリしている。

 話とはどうやらプロポーズではないようだ。

 樹に憑いたインド人はやはりニタニタと笑っていた。

「今夜はもう遅いから、帰るね」

「あ、うん……」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 なんとも後味が悪い。

 樹の話とは一体何だったのだろうか。

 そしてインド人の笑みの理由は何だろうか。

 奈緒は樹の車のエンジン音が遠くなったのを確認して、

「何なのよ、もう!」

 と落胆のストレスをクッションにぶつけるのだった。