奈緒の鼓動が高鳴って、体に響く。

 潤んだ目を作りきゅっと抱きつく腕に力を込めると、スーツ姿の樹の顔はみるみる穏やかになっていった。

「そっか……よかった」

 スーッと奈緒の体から緊張が解放されていった。

「だけど、飲みすぎはよくないよ。明日も仕事なんだから、ちゃんと考えて飲まないと」

「うん。心配かけてごめんなさい」

 樹は奈緒をあやすように撫で、微笑む。

 その時、なぜか樹から緊張が伝わってきた。

 ふとインド人に目をやると、ニタリといやらしい笑みを浮かべている。

「ねぇ、奈緒」

「なに?」

「俺、何も考えていないわけじゃないよ」

「え?」

「だからその……結婚、とか」

 え、そうなの?

 だったら話は早いじゃないか。

 しかし気になるのは、奈緒を嫌っているはずのインド人の笑みだ。

 霊が見えない奈緒の期待が部屋中に膨らんだ。