「だからって、そこまですることないじゃない」
ガラにもなく泣いてしまった奈緒に、沢田は焦る。
「え? 何だよ。泣くなよー」
シャツの袖で奈緒の涙を拭くと、奈緒はバシバシと彼の肩を叩く。
「樹と結婚できなかったら沢田君のせいだからね」
「俺のせい? こんなに協力してるのに」
「邪魔してるの間違いでしょ?」
奈緒の喚き声に周りの客の注目が集まる。
居心地の悪くなってしまった二人は、そそくさと居酒屋を出た。
すっかり拗ねてしまった奈緒は早足で歩き、それを沢田が追う。
適当なところでタクシーを拾うと、奈緒に続いて沢田も車に乗り込んだ。
「何であんたが乗るのよ」
「彼氏にちゃんと送るって約束したし」
「ふん、車代あんた持ちだからね」
「わかってるよ」
この時、俺は再び嫌な予感を感じた。
頭に浮かんだのは、樹に憑いたインド人だった。



