奈緒は笑顔でカップを受け取りながら、ハゲかけた課長の頭をチラ見して給湯室に入った。
カップにコーヒーを注ぎ、ため息をひとつ。
(樹と結婚したら、仕事辞めちゃおうかなぁ……)
美人の奈緒は会社のアイドル的存在であるし、この手の中年社員はほとほと奈緒に甘い。
少しくらいの失敗は笑って許してもらえるし、にっこり笑うだけで希望した日に休みが取れたりもする。
その裏ではどんなに嫌なタイミングでも笑顔を作り、媚びる努力を惜しまなかったからなのだ。
「お待たせしました」
課長はカップを受け取りながらチラリと奈緒の胸元を見て、満足そうに礼を言った。
入社してから三年、ほぼ毎日同じようなやりとりをしてきたが、樹との結婚を意識し始めた最近では、やたらそれが苦痛に感じるらしい。
その分の捌け口も、やはり沢田なのである。



