浮気女の嫁入り大作戦


 犬は俺のことを覚えているらしい。

 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を閉じ尻尾を振っている。

 人懐っこい犬だったのだろう。

 すると犬は急にピョンと跳び、俺の膝に乗ってきた。

「うわっ」

 驚きのあまり声を出すと、隣に座っている奈緒が目を覚ました。

「ん……? なんだ、まだじゃん」

 俺の声が聞こえたのかと思ったが、やはり俺の存在には気付いていない。

 そのまま再度眠ってしまった。

 二人分離れた場所にいる高校生も、何食わぬ顔で携帯をいじっている。

 霊なんて寂しいものだ。

 そのまま犬を膝に乗せて撫でていると、またふといなくなってしまった。

 高校生の彼が降車したのだ。

 さて、奈緒もそろそろ電車を降りる時間だ。

 仕方がない。

 起こしてやるか。

 俺の優しさで目を覚ました奈緒は、やっぱあたし天才、と心で呟きながら降車した。