沢田の提案は単純だがいつも的を射たものばかりだ。
奈緒のことが好きなくせに、自分の気持ちは後回し。
良い奴なのだが、良い奴止まり。
損な性格である。
「なるほどね~。それ、いいかも」
奈緒のバロメーターがぐいぐい上昇するのを感じる。
今日この日もまた、午後から樹と会う予定だ。
どう出るつもりだろうか。
二人はいつものように昨日着ていたスーツを身に付け、エレベーターで長いキスをして笑い合い、駅で「じゃあね」と手を振って別れた。
ちょうど良いタイミングでやってきた電車に乗り込むと、すっぴんで眉毛もない貧相な顔は更に間抜けな寝顔になる。
俺も隣に腰かけてみると、足元にふわりとした何かが触れた。
赤い首輪をした犬の霊だ。
ふと横を見てみると、いつぞやの高校生が座っている。



