「じゃあ、私の方が人生の先輩ですね。なんちゃって、ごめんなさい。調子に乗りました」
それは明らかに奈緒に向けられた言葉だった。
年齢、妊娠、結婚、出産、育児。
できちゃった婚した彼女のこのセリフが、ガツンと奈緒を殴ったらしい。
真琴は恐らく冗談のつもりで、ちゃんと後から「なんちゃって、ごめんなさい。調子に乗りました」と言っているにもかかわらず。
奈緒の心は狭いのだ。
「ホントだね。じゃあ、そういうことは真琴ちゃんに相談しよっかなぁ」
内心ピキピキと怒りをたぎらせながら、外面の良い奈緒は笑顔で接した。
後輩に優しくしておいたほうが後から仕事を頼めたりして得だという勘定が割り出せたからだ。
別に真琴を嫌ったわけではない。
結婚したくてたまらない奈緒にとって、その一言が痛すぎただけなのだ。
しかしその時のストレスは、今こうしてラブホテルのベッドに備え付けられた枕にぶつけられているというわけだ。
殴られ、蹴られ、押しつぶされて、かわいそうに。



