「今日は何だかご機嫌だね」

 会社の給湯室にて、沢田は奈緒を見るなりそう声をかけた。

 奈緒はタバコ片手にニコニコというよりはニヤニヤと笑っている。

「彼氏がさ、結婚にちょっと興味を持ってくれたみたいなんだよね」

「ふーん。教育、うまくいってんじゃん」

「そうみたい」

 沢田はカップにコーヒーを注いで一口すすり、タバコは吸わずに給湯室を出た。

 そして奈緒が一本を吸い終わる前に、外回りへと出かけてしまった。

 直後、ポケットで奈緒の携帯が鳴り出す。

 沢田だ。

「何よ?」

 無愛想に電話に出た奈緒。

「俺はもう必要ない感じ?」

「は? 誰もそんなこと言ってないじゃん。今週末、付き合いなさいよね」

 そう高飛車に告げて、タバコを灰皿に押し付けた。

 俺は是非ともこの姿を樹に見せたいと思った。