思わず漏らした言葉に、マスターが反応する。

「お客さんの方が美しいですよ」

 なんてキザな野郎だ。

 奈緒はクスッと微笑み、嬉しそうにカクテルを飲んだ。

 マスターの営業トークに気を良くした奈緒は、次から次へとグラスを空ける。

 もうやめておけ。

 さすがに飲みすぎだ。

「ねぇマスター。あたし、典型的に嫌な女だって言われたの」

 酔った奈緒は、マスター相手に愚痴を言い出した。

「そんなことないでしょう。嫌な女なら、そんなに綺麗なわけがない」

 彼の返しはさすがである。

「でも、あたしの良いところは顔とエロいところだけだって」

「はは、男にとっては最高のポイントですよ」

 マスターの優しい返事に、奈緒はじわりと涙を滲ませる。

「いらっしゃいませ」

 新たな客にマスターが離れ、奈緒はこっそりおしぼりに涙を吸わせた。