幸せな顔をしている奈緒は悪くない。
自宅で仕事のイライラをクッションにぶつけている時の顔は醜いことこの上ないが、笑顔ばかりを引き出す樹との結婚は俺としても賛成だ。
しかし、沢田との関係を切られると困る。
俺は奈緒に憑いている身。
奈緒の行く場所にしか行くことができない。
奈緒に必要がなくなったとしても、俺には沢田が必要なのである。
「ねえ樹。あたし、いっつも樹にもらってばっかりじゃない?」
「そうかな?」
「だからね、お礼がしたいの」
「えー? 気にしなくていいのに」
照れた顔を作り、奈緒は軽くネックレスに触れながら樹を見つめる。
「来週、うちでご飯食べない?」
「うちって、奈緒のうちってこと?」
「うん。あたし、作るから。樹、外食ばっかりでしょ? たまにはいいじゃない。家庭料理」



