浮気女の嫁入り大作戦


 二人は一旦カフェに落ち着いた。

 クリーンな禁煙フロアの窓際カウンターに隣り合って腰を下ろし、温かいドリンクをすする。

 店内に入ると決まってまずジャケットを脱ぐ樹が、今日は着用したままだ。

 もう春だというのに、なぜだろう。

 奈緒も同じ疑問を抱いているが、指摘はしない。

「奈緒。実はさ、渡したいものがあるんだ」

 この言葉に奈緒の期待がぐっと膨らむ。

 同時にキュッと体に力が入る。

 少し緊張したようだ。

(もしかして、プロポーズ?)

 なんて思っている。

 樹は脱がないジャケットのポケットに手を入れた。

 ポケットサイズのプレゼント。

 更に期待は高まる。

 こいつ、まさか本当に……。

 コトッと軽い音を立ててテーブルに置かれたのは、小さな箱だった。