「そうじゃない!」
奈緒の声が、部屋にホワンと余韻を残す。
樹は眉間にシワを寄せ、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あたしと結婚して、妻として連れてって言ってるのよ」
逆プロポーズ作戦、完了。
ここからは、樹の反応次第ということになる。
奈緒の言葉に、部屋は一層緊迫感が増した。
樹は黙ったまま、背もたれに肘を載せたポーズで固まっている。
奈緒は目に涙を溜め、しかしこぼすことはなく手を握る力を増した。
そんな状態がしばらく続いたが、風で窓に雨が強く当たった音を皮切りに、ふーっと樹から力が抜けていった。
「奈緒……。俺のために、そこまで覚悟を決めてくれたんだね」
穏やかな口調。
暖かい手が頭を撫でた。
奈緒は顔を上げると、樹の整った顔が微笑んでいる。
その暖かい表情に、奈緒の顔も緩んだ。



