奈緒が電車に乗り込んだ頃には、もう夕方だった。
乗客は高校生の割合が高い。
いつもの出勤時や退社時よりも騒がしい車内に少しだけいらついてしまう。
奈緒は今、樹のもとへと向かっている。
いわゆる逆プロポーズをするためだ。
指輪もないし、サプライズや感動的な演出の準備もない。
突発的ではあるが、今日しかないと思った。
〈話があるので、ロビーで待ってます〉
乗り換え電車を待つ間、奈緒は樹にそうメールを入れた。
返信が来たのは樹が住むマンションの最寄り駅に到着してからだった。
〈もしかしてもう向かってる? できるだけ早く帰るようにするよ〉
返信を確認した奈緒は、近くの本屋で文庫の小説を購入し、マンションへと向かった。
ビルの電光掲示板が表示する天気予報によると、雨は明後日まで止まないらしい。



