濡れた髪のままコーヒーをすする奈緒。

 その浮かない表情に、沢田が気付かないわけがない。

「で、寝不足の理由は?」

 奈緒は目も虚ろに黙ってしまった。

 思い出すと、何とも悲しい。

「毎熊さん」

 急かす沢田に奈緒は観念した。

「樹の転勤が決まったの」

「転勤?」

「そう。インドだって」

「インド……か」

 そこまで聞いて大体を察したのか、沢田はそれ以上聞くことはしない。

 彼の肩に手を添える花枝は、驚いたように奈緒を見た。

 花枝は俺は見えないくせに、インド人は見えていた。

 彼女は原因を察したはずだ。

「来月から、最低でも5年だって」

「それで彼氏のことどうしようか悩んでるんだ」

 奈緒はこくりと頷く。

 沢田は手に持っていたカップと肘をテーブルに載せ、頬杖をついた。