樹はロンTにジーンズというラフな服装ではあるが、後部座席にレザーのジャケットを放っている。
くせっ毛を利用したふんわりなヘアスタイルとの調和が男としては憎たらしい。
きりっとした目元に通った鼻筋。
これが奈緒の結婚したい男、いわば作戦のターゲットだ。
奈緒は彼の横顔が特に気に入っているらしく、付き合って2年も経つのに運転中の彼をチラ見する。
「ねえ、樹」
「ん?」
「あのね、今日の晩ご飯なんだけど……」
あたしが作る、と言いかけたときだった。
「ああ、そうそう。三軒茶屋に気になる店見つけたんだ。今日そこに行きたいんだけど、いいよね」
先に提案されてしまった。
作戦を実行する前に出鼻をくじかれるなんて、笑える。
さて、この女、どう出る?
「うん、いいよ」
いいのかよ!
良妻アピールは諦めたのか?
「その店、中に水槽があってさ。写真見たら結構いい感じで――」



