奈緒が隣に腰を下ろすと、樹は読んでいたマンガを閉じた。
そして、少し神妙な顔をして、
「奈緒」
と低く呼ぶ。
「実は来週、一週間出張があるんだ」
「出張? 結構長いね」
これまでもちょこちょこ出張には行っていたが、そんなに長かったことはない。
俺の視線は、当然インド人に向く。
彼はやはり笑顔だ。
少しだけ予想がついたぞ。
「ああ、海外だからね」
「海外? どこ?」
そんなの、決まっている。
「インド」
なるほど、そうきたか。
樹にインド出張を呼び込んだのは彼に違いない。
運命は度々、憑いている霊によって左右されるのだから。
「インド? どうしてそんな辺鄙なところに?」



