俺が起こすことなく電車を降りた奈緒は、タクシーを利用して帰宅。
樹がまだ到着していないことに胸を撫で下ろし、すぐに電話をかけた。
「あ、樹?」
息を漏らし、かすれた声を出す。
寝起きという設定らしい。
「ごめん、寝坊しちゃったの。今どこにいる?」
「奈緒が寝坊なんて珍しいね。あと5キロで着くけど、どっかで時間潰してようか?」
5キロ……。
ギリギリだ。
電車を一本遅らせていたら、きっと大変なことになっていただろう。
「ほんとごめん。急いで準備するから」
電話を切った瞬間、奈緒は風呂場に飛び込む。
そしていつもより少し温めのシャワーで沢田の名残りを消した。
沢田が奈緒の体に跡を付けることはしなかったのが救いである。
超特急で準備を始めた奈緒が部屋を出たのは、それから40分後だった。



