浮気女の嫁入り大作戦


 正午を回った頃、奈緒の携帯電話が鳴り始めた。

 樹だ。

「着いたよ」

「うん、わかった。今出るね」

 奈緒は猫なで声でそう答えると、バッグを片手に部屋を飛び出す。

 3月も終わりのこの時期は、過ごしやすい気候になって服もいささか華やかになる。

 今日のチョイスはなかなか可愛らしい服だ。

 ピンクのふんわりしたトップスにデニムのジャケットを羽織り、下は膝丈のプリーツスカート。

 紫のタイツにブラウンのブーツ。

 まさにデートという感じだ。

 アパートの階段を下りる途中に、樹の車が見える。

 シルバーのセダン。

 そこそこイイ車である。

 奈緒は笑顔のまま慣れたように助手席に乗り込んだ。

「お、春って感じだね。好きだよ、そういう服も」

 樹の褒め言葉に照れ笑いをする奈緒。

 見ていられない。

 俺にはわかる。

 可愛く見られたいがためにそういう顔をするんだと。