「女は思い出に陶酔するものなの。いつまでも感動的な思い出に浸って、彼への愛を確認するものなの。それが一生の宝物になるのよ」

 確かに女は細かいことをいつまでも覚えている傾向がある。

 その分嫌なことも、執念深く覚えているが。

「ふーん。でもさ、感動的なプロポーズなら誰でも愛せるの?」

「そんなわけないでしょ。好きな人限定よ」

 言いたいことを言って満足そうにコーヒーを飲む奈緒。

 沢田はそんな彼女を見ながらタバコの火を消し、その手で自身のネックレスのモチーフをカチリと鳴らした。

「でも、さ」

 控えめに放たれた沢田の声も、静かな室内ではスムーズに奈緒に届く。

「まだプロポーズはないんだろ?」

 奈緒の顔が、また不機嫌になった。

「待ってるだけじゃ、いつまで経ってもないかもよ」

「そんなことないもん」