次の駅で下車しなければならないというのに、仕方のない女だ。
いつもそう。
電車で座席にありつくと、奈緒はいつの間にか眠ってしまう癖がある。
だから俺は、駅に到着する少し前に起こしてやることにしている。
「はっ……やば、もう次じゃん」
慌てて目を覚ます奈緒。
「でも何だかんだで乗り過ごしたことはないんだよね。いつもタイミングばっちり。あたし天才」
なんて思っているようだが、俺が親切なだけだ。
憑いていても起こさない、もしくは起こせない霊の方が多いのだから。
こうして電車を降りた奈緒は、足早に自宅アパートへ帰宅し、すぐさまシャワーを浴びる。
さすがに沢田に抱かれた体のまま樹に会うことはしない。
そしてバタバタと私服に着替え、愛しの恋人のために化粧を施すのである。



