まだ姿を現さない和也に、芳子はひょっとしたら彼の身に何かあったのではないかと心配になって来た。

 席を立ち、待合室を出ようと辺りの気配に注意してみると、バスの横に立っている女性の事が、ふと気になった。

 更に周囲を見渡すと、向かい側に人影が動くのが見えた。

 女性がその人影に微かに頷いている。

 その視線は右手の新宿郵便局方向を注視している。

 芳子は、八王子署で接した何人かの婦人警官や刑事達の印象を思い返していた。

 何処と無く、彼等達と同じ匂いを感じ、身体が強張ってきた。

 その女性の右手がゆっくりと動き、ベージュ色のハーフコートのボタンを外しはじめ、その裾が背中へ捲くれ上がった。

 ほんの一瞬だけ露になった腰のベルト辺りに、黒い塊が括られてるのを目にした。

 芳子の記憶は、そこから途切れていた。