バスの出発時刻が迫っている。

 芳子はじっと待合室の時計を見つめていた。

 彼との逃避行を選んだが、その先にあるものがどういう結果となるか、正直判らない。

 これで果たして良いのだろうかという思いも無いではない。

 芳子にはもはや和也の居ない世界など考えられなかった。

 例え、自分が地獄に落とされるような所業をこの先重ねて行くような事になったとしても、後悔はしないと心に決めた。

 彼と一緒ならば……

 想いはその一点だけであった。

 理屈や理性では無い。今は本能のみが彼女を突き動かしていた。

 乗務員が事前の発券枚数と乗車人数を確認し始めた。

 それを横目で見ながら芳子は、きっと和也は来てくれると自分に言い聞かせ、もう一度時計に目をやった。

 発車5分前を示していた。