和也の泊まっていたビジネスホテルに芳子から電話が入ったのは、一昨日の事だった。

 あの夜、芳子に促されて現場を逃走した和也は、新聞やテレビのニュースで彼女が自分の身代わりとなって逮捕された事を知った。

 何度か自首する事を考えたが、結局はそうしなかった。

 彼女が不起訴処分で釈放された事を知ると、直ぐに電話を入れた。

 一緒に逃げよう。

 そう言って来た彼女の言葉に和也は頷いていた。ただ、暫くは芳子の周辺に警察の監視が付いている事は間違い無いから、数日は様子を見る事にした。その間、和也は都内のビジネスホテル等を転々とし、彼女からの連絡を待っていた。

 和也自身、二人で一緒に逃げおおせるとは思っていなかった。もし、本気で逃げ回るのなら、彼女との関係を全て消し、闇に紛れてしまう方がいい。自分一人だけなら出来る。だが、和也はそうしなかった。芳子との逃避行を選んだ。

 何の根拠も無く、仙台へ行こうと言い、芳子はあんたとなら何処へでも行くと言った。

 高速バスで行こうと言い出したのは芳子の方だった。

「早朝に出発するのがあるんよ。新宿からやけどええ?」

 早朝出発ならそんなに乗客も多くなく、人目につかないのではないか。一抹の不安はあったが、和也は芳子の言葉に従った。

 待ち合わせる場所は新宿西口バスターミナル。今、その場所へ向かっている。