自分が犯人であると供述している浪岡芳子は真犯人を庇っているのではないか。
当然、捜査員の誰もがそう疑った。
前科照合と一致した指紋の持ち主である佐多和也の手配写真が作られ、警視庁管内及び、近隣各警察署は勿論の事、全国各道府県警へ配布された。
すると間もなく、吉祥寺署から7年前に起きた女性変死事件での死体遺棄容疑で重要参考人として手配していた人物だとの連絡が入った。
急遽、八王子署に捜査本部を設置し、警視庁捜査一課からも応援が駆け付けた。
浪岡芳子への取調べはより執拗になったが、どんなに捜査員が問い質しても、彼女は、自分がやりましたの一点張りで、それ以上の事は語らなかった。
アパート周辺の聞き込みから、佐多和也と浪岡芳子が同棲していた事実が明白となり、その事を取調べで確認しようとしても、彼女は、知り合って間も無いし、佐多和也という名前だとは知らなかったと言うばかりであった。
明らかに佐多和也を庇っている節があるが、検察は浪岡芳子を二十日間拘留した後、嫌疑不十分として、不起訴処分にした。
警察は、浪岡芳子を泳がす事で、佐多和也と接触するのではないかと期待したのだ。
捜査員達を24時間体制で彼女の周辺に張り込ませ、動向を監視した。
釈放後、数日間はアパートに引き篭もっていた浪岡芳子だったが、事件発生から丁度一ヶ月が経過した夜、彼女に動きが現れた。
この当時、八王子署の捜査一課に勤務していた前嶋も、部下を率いて浪岡芳子の監視に当たっていた。



