国道沿いの交番に勤務していた中井巡査は、そろそろ定時パトロールの交代時間だなと思い、巡回用の防寒ジャンパーに袖を通した。
10月半ばだというのに、今夜は随分と冷える。
都心から快速でも1時間近く掛かる八王子は、気温も5度程度低い。
それにしてもパトロール中の角田巡査長は遅いなと、何度も時計を見た。
突然、左肩の携帯無線機が、がなり始めた。興奮した声の主は、角田巡査長だった。
(……北野町郵便局近くの路上で、頚部より血を流している中年男性を保護!友人宅で見知らぬ男性に刺されたと繰り返しています!傷害事件と思われますので、至急応援願います!尚、間もなく要請の救急車が到着の予定!搬送先が確認出来次第、改めて連絡します!)
中井巡査は急いで交番の入口を施錠し、自転車に跨った。
角田巡査長からの緊急無線で、警邏隊のパトカーもサイレンを鳴らし、現場へ急行した。
被害者の怪我の状態が切迫していて、もし、救急車の到着が遅れるようであれば、パトカーで病院へ搬送しなければならない。
無線が入った現場に着くと、丁度救急車も到着していて、中年男性に応急処置を施している真最中だった。
到着したパトカーに緊急無線を入れた角田巡査長が駆け寄って来た。
すぐさま現場保全の措置をし、何事かと集まり始めた野次馬達の応対に掛かった。
救急車が向かった搬送先の病院名を署に連絡し、病院に一番近い場所に居るパトカーをそちらに向かわせた。この時点では、被害者の意識はまだはっきりしていたので、角田巡査長があらかた事情を聴き出していた。
被害者男性の名前は谷口敬三。年齢39歳。都内世田谷区在住。知人女性、浪岡芳子のアパートを訪ねたところ、そこで見知らぬ男性が部屋から出て来て押し問答となり、いきなり包丁で刺された。殺されると思い、慌てて逃げた……
そう供述した被害者の意識は、ここで途絶え病院へ搬送された時には意識不明の重態に陥っていた。
その頃、若い女性から110番通報が入り、知人男性を刺したと言って来た。
女性は浪岡芳子と名乗り、現場はJR八王子駅から徒歩10分程の北野町との事で、早速、八王子署に連絡が行った。



