迷宮の魂

 アパートを移って直ぐに、芳子は新しい仕事も見つけたと言って来た。和也が刑務所に戻っている間の事を考え、少しでも収入の多い仕事の方が良いからと、新宿のキャバクラに勤めると言い出した。

「あんたが行ってる間にな、お金貯めよう思うて。でな、お店を出すねん」

「店?」

「美容室。あんたと、うちの店や。あんたがお客さんの髪切って、うちがレジとかすんねん。そや、シャンプーとかも出来るようにならなあかんなあ。うちも勉強して、免許取ったろか」

「そんな事を考えてたのか。でも、それだったら何も新宿なんて遠くまで行かなくても、この辺の近場で良かったんじゃないのかい」

「うちも最初はそう思おうたんよ。けどな、前に世話になったスカウトの人がな、ええ条件の店があるゆうてくれてたんよ。時給なんかこっちの倍やし、帰りもちゃんと送ってくれるんよ」

 彼女なりに将来の事を考えての事なのだろう。

 まるで、子供が夢を語るかのように楽しげに話すルカを見ているうちに、和也は彼女の好きにさせてやろうと思い始めた。

 和也は和也なりに考えている事があった。

 それは、彼女との結婚であった。

 きちんと入籍した上で、取り消されているかも知れない仮釈放分の残刑を務めるつもりでいた。妻という存在があれば、刑務所の中で何があっても堪えられる。自棄を起こさない為にも、そういうものが欲しかった。恋人とかよりももっと強い絆で繋がれた存在として、芳子に自分を待っていて欲しかったのだ。

 ただ、この時点で、自分に死体遺棄の容疑がかかっているとは考えてもいなかった。